地下鉄大通駅の改札を出たすぐのところに、「立ち食いそば屋さん」がある。
昔から、くの字に曲がったカウンターにたくさんの人が立って美味しそうにお蕎麦をすするその光景を、羨ましく見ておりました。
小学生だった僕は、
「大人になったらあそこでお蕎麦を食べるんだ」
なんて思っておりました。
忙しい仕事の合間に、手早く美味しいお蕎麦をはふはふ言いながら食べるサラリーマンに憧れていたりもしてました。
月日は流れ、おいらも世間では大人と呼ばれる歳になり、車に乗るようになってからは、その「立ち食いそば屋さん」の存在をすっかり忘れてしまっていました。
しかし、ここ1年、車持ちじゃなくなってからは、すっかり地下鉄利用者になったおいら。
改札を出るたびに、鰹ダシのいい匂いを嗅ぐたびに、昔の自分を思い出していました。
「いつかここでお蕎麦を食べるんだ」
と、野望を抱きながらも、カウンターがいっぱいだったり、時間がなかったりで、なかなかお蕎麦にありつけませんでした。
しか~し!
ついに今日、その野望が果たされたのです!
いつものように、たくさんの人がひしめき合っているカウンターに一人分だけスペースが空いてました。
迷うことなくそのスペースに体をねじ込んだおいらは、緊張しながら天玉そばを頼みました。
一杯430円。
いままで恋焦がれていたお蕎麦の味は、ちょっぴり薄めで体にやさしい味でした。
大人だ。
これでおいらも大人の仲間入りだ。
小学生だったおいらが、いま「立ち食いそば屋さん」でお蕎麦をがっついているおいらを見たらどう思うんだろう。
大人に見えるんだろうか?
憧れてくれるんだろうか?
いや、大丈夫だ。
きっと素敵な大人に見えるはずさ!
そんな想いに耽っていると、横から小さな手が出てきました。
見ると、カウンターから頭がやっと出るくらいの小学生が小銭を握りしめて立っていました。
「天玉そばひとつ」
なれた口調で注文すると、背の高いカウンターから器用に蕎麦を受け取り、壁によりかかりながらすすり始めました。
「……大人だ」
おいらの大人像をあっさり塗り替えた彼は、早々に食べ終え、彼にはちょっと大きめの器をカウンターに置き、土曜の昼の雑踏に消えていきました。
くそ。自然だ。あまりにも自然にここを利用していらっしゃる。
負けません。
次にあなたに会うときは、もっと溶け込んだ僕をお見せします!