「うめ吉」という名前が付いた大きい犬のぬいぐるみは、僕が物心ついた頃から家にいた。
サイズはかなり大きめで、けっこうしっかりとした作りだったので、子どもの頃はよくうめ吉の背中に乗って遊んだりしていた。
時々乱暴に扱ったりもしたけど、
うめ吉はずっと家にいて、僕や家族を優しく見守ってくれていたように思う。
そんなうめ吉が大好きで、偏愛していた。
月日は過ぎて、僕が中学生のとき、あることに気付いた。
「うめ吉が黒すぎる」
記憶は薄いが、うめ吉は最初白い毛並みをしたぬいぐるみだったのだが、
長い年月を経て、いつの間にか黒い毛並みを帯びていた。
そりゃそうだ。10年以上一回も洗われず、子供たちに散々遊ばれ尽くしたのだ、黒い犬にもなる。
「うめ吉を綺麗にしてあげよう」
そう思い立った僕はぬいぐるみの洗濯が可能なコインランドリーにうめ吉を連れていくことにした。
そういえば最近はうめ吉と戯れてないな、
うめ吉が綺麗になって白い毛並みを取り戻したら、ふかふかのカラダに久しぶりに抱きつこう。
そんなことを思ってうめ吉が洗われているドラムの窓を覗いた。
が、そこにあったのは犬のぬいぐるみのうめ吉ではなく、
ただの布と大量の綿であった。
コインランドリーのドラムの威力に耐えられなくなったうめ吉は、破れ、中から徐々に綿が飛び出し、最終的に原型がまったく無いただの布と綿になってしまったのだ。
そんなうめ吉(であったもの)を、ただただドラムの窓の外側から傍観することしかできなかった。
僕がうまれてからずっと側にいてくれたうめ吉は、突然僕の目の前から姿を消した。
ということを突然思い出した。
そんなぼくは今舞台の稽古で東京に滞在しており、今日から本番です。
メロトゲニ「こぼれた街と、朝の果て。~その偏愛と考察~」
ミステリーのようなスタイルで始まる、繊細で切ないラブストーリーです。
下北沢の小劇場楽園にて17日まで。
全ステージ当日券ございますので是非!
その後札幌公演もあります。
当たり前にあったものが、突然なくなっちゃうことって、
ありますよね。
当たり前の幸せを、当たり前じゃないんだな
と気づけるような人間になりたいです。
皆さんが偏愛するものはなんですか?
では、本番いってきます!